変わっている子だな、と思った。
気難しい顔をして窓の外を眺める彼は、
その表情のくせ、イライラとしたオーラを感じない。
彼の視線の先には、一匹鳥が飛んでいて、
俺はすることもなく同じように眺めていると不意に彼が声を上げた。
「鳥だって自由なわけじゃないのにな」
俺に話しかけるでもなく、彼はぼそりと呟いた。
なんで自由の代名詞なんだろうな、そう続けるとため息をついて
ぬるくなったコーヒーをゴクゴクと飲み干す。
「ぬるい」
案の定の一言と、先ほどの言葉の落差に喉の奥で小さく笑うと、
彼は眉間に皺を寄せたままムスっと俺を見た。
「なんだよ、」
笑われたことが気に入らないのか唇と尖がらせる。
「いや?」
その仕草にさらに可笑しくなってフフッと笑いをこぼすと
彼は不貞腐れたように頬杖をついた。
「一護は、鳥のように飛んでみたいとか思ったことはないのかい?」
途切れた会話を、先ほどの話で繋いでみる。
ちらりと彼は、視線だけ俺を見ると、一拍あって「別に」と短く返した。
「翼を羽ばたかせるのだって、体力がいるんだ。一緒だろ、歩くのと」
そうか?と間髪いれずに問うと、一護は、そうだろ。と素っ気無く言う。
どうしたもんかと彼の心内を探ろうとまじまじと彼を見つめてみるが、
ただ、一護はガムシロップを弄ぶだけで、なんら回答は得られなかった。
しかたなくコーヒーカップを口へ運ぶと、一護が不意に口を開いた。
「浮竹さんは?」
俺はカップを口から離す。
「ん?」
「あんたは鳥みたいに飛んでみたいとか思ったことあんのかよ」
ぶっきらぼうな問いかけとは裏腹に、彼の顔があまりにも寂しげだったため
俺は一瞬動きを止め、そしてカップをテーブルに置くと、ふむ、と少し間を空けた。
「飛ぶのは楽しそうだな、とは思うけどな。どこかへ行きたいとは思ったことはないさ」
まぁ温泉には行きたいけれど。
そう答えると一護はフッとそれまでの表情を崩して笑顔を浮かべた。
「あんたらしいよ、浮竹さん」
きっと、俺とこの子は同じ不安を抱えているのだろう。
そんな事を考え、ある意味似たもの同士なのかもしれないと、
苦々しい笑みを一人こぼした。
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